Hakone

2018 November

紅葉の箱根へ


箱根には仕事でもプライベートでも度々訪れているけれど、息子が生まれてからは初めての訪問。私が幼少期〜10代、20代を過ごした都内も当時の倍くらい人が増えているなあと感じるこの頃。紅葉シーズンの箱根の観光地は都内の混雑を思い出すかのような人の多さ。特に芦ノ湖の遊覧船や箱根神社周辺、ケーブルカーは外国人観光客だらけ。それでもケーブルカーからくっきりと大きな富士山が見えたり、芦ノ湖畔に浮かぶ鳥居と富士山という壮大な景色を見た時には息子を連れてきて良かったなあと思うのだった。

そんななか、美術館は箱根でもマイナーなスポットなのか、そこまで人の多さを感じることなくゆっくり過ごすことができた。最近、自分の映像作品がアメリカやスペインの彫刻庭園で上映されたり、札幌でも彫刻庭園を訪れたりと彫刻の庭園にご縁があるような気がする。箱根で惹きつけられるようにして訪れたのが「箱根彫刻の森美術館」。緑豊かで広大な敷地に近現代の彫刻作品が点在。ここの魅力の一つが、子どもが遊べる作品がいくつかあるということ。中でも透明感溢れる「しゃぼん玉のお城」を息子はとても気に入り、初めは登れなかった段差もしばらくすると軽々と登れるようになり、ついには一番上まで登り、「もっと遊ぶ!」と翌日も再訪したほど。足湯ができるスポットがあったり、鯉にエサをあげたりと大人も子どもも楽しめる、アート以外の工夫がさりげなくあるのが素晴らしかった。

美術館を訪れる人を観察するのも楽しみの一つ。独特のスタイルをもったおしゃれな人が多い気がして、垢抜けたスタイルのファッションを見て目の保養にもなる。私はこの日、着物に洋服用のポンチョを合わせて。まだ手袋をするほどではないけれど、着物は夕方になると首回りが冷えるのだ。アンティーク着物の雪の結晶みたいな柄がしゃぼん玉のお城に合っているような気がして嬉しくなった。

国内にも海外にも彫刻の庭園は数多くあり、モダンな彫刻作品と、自然を感じる庭園は相性がいいのだなあと庭園内をゆっくり散歩しながら考えた。ダイナミックな大きさをもつ彫刻作品は美術館の中で「鑑賞」するよりも、美術館の外に出て自然の中で「体感」するのが合っているのかもしれない。

建築を学んでいた大学1年目の秋に友人と車で訪れて以来の2度目の訪問。黄色や赤に色づいた箱根の森はふわふわした浮遊感に溢れている。そんな森の中に控えめに佇むポーラ美術館の美しさ。ガラスをうまく使った建物で、併設されたカフェからは淡く紅葉した森が見え、まるで絵画の世界に包まれているようだった。

開催されていたのは「ルドン ひらかれた夢 幻想の世紀末から現代へ」展。いつか岐阜県まで見に行こうと思っていたルドンの作品に、今年は5月の三菱一号館美術館での展示に加え、ここでも出会えて嬉しい。ルドン展の展示内容は三菱一号館美術館の方が充実していて見応えがあったと思うのだけれど、ルドンの作風とポーラ美術館の透明感のある空間がよく合っていた。三菱一号館美術館では展示されていなかった作品もいくつかあり、「黒い花瓶のアネモネ」はアネモネの周囲を取り囲むブルーの色彩に吸い込まれそうになった。

ポーラ美術館のコレクションにもいくつか足を留めて見入ってしまった作品があり、特にゴッホの「アザミの花」は寒色系の色使いにハッとさせられた。当たり前だけれど、絵画は実物の前に立たないと。受け取るインスピレーションが全然違うのだ。それに、ポーラ美術館は建物自体もまた一つの芸術作品のようで、その空間をゆっくり味わうことが大切な時間だなあと感じるのだった。

紅葉を楽しみに訪れる人々でにぎわう箱根で、珍しく静けさを感じたのが「箱根ラリック美術館」。ルネ・ラリックの作品を見るのは初めて。ここが、期待以上に良かったのだ。ジュエリー、香水瓶、ガラス工芸品など、アール・ヌーヴォーとアール・デコの2つの美術様式を取り入れた作品からは、ラリックの素晴らしい感性を感じ取ることができる。

ラリックの室内装飾が美術館の随所に散りばめられており、まずエントランスに入った瞬間からドットが点在した透明感溢れるガラス作品に惹き込まれる。私は一階の暖炉のある円形の空間が好きで、時間を忘れて何度もその空間を往復していた。

香水やガラス工芸品などはぐるりと360°どの角度からも見られるよう、ガラスのショーケースに入れたり、建物の各部屋の空間にそれぞれの作品の特性を生かして作品たちがさりげなく空間に溶け込んでいたりと、展示方法も工夫されている。

特に印象的だった作品はリシュアン・ルロン社の2つの香水瓶「香水A(またはN)」、黒い魚のような模様が浮かび上がった花器「パンチエーヴル」、ガラスに黒い渦巻きが浮き彫りされた花器「つむじ風/浮き彫りされた渦巻」。私は白、黒、透明、シルバーに幾何学や抽象文様のモチーフの作品に惹かれるのだな、と改めて感じた。

空間全体でラリックの世界観を味わえるこの美術館では、時間を忘れて静かに作品と向き合いたい。まるでラリックの魔法にかけられたみたいに。

yuuki photography

佑季 Yuuki 旅と建築探訪の写真、エッセイ Photo Essay Travel & Architecture

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